父の死を悼む家族の絆に涙。個体数が減少するゾウの飼育について聞いてみた【会えなくなるかもしれない生き物図鑑】
東京ウォーカー(全国版)
食べる方も出す方も大変だ!
――アフリカゾウはオスなら最大で5トンから7トンにもなる世界最大の陸上生物。それだけにエサの量も半端ではない。動物園ではどのように対応しているのだろうか。
草のセルロースからはなかなか栄養を取れず、量をいっぱい食べることで必要量を吸収するため、朝から晩まで食べていることになります。1日に食べる量は生草に換算して1頭当たり110~130キロぐらい。安定供給するために干し草が中心で、アメリカなどから牧草を輸入しています。季節によっては近くの農家で栽培している青草や、おやつ程度にリンゴ、イモ、ニンジンなども与えます。愛媛県はミカン栽培が盛んなので、農家さんからミカンをいただくこともあります。
食べる方も大量ですが、出す方も大量。畜産などでは排せつ物の処理をオートメーション化しているところもありますが、うちは人力です。3頭のうんちや食べ残りなど500kg程度を全部手でトラックに積み上げ、それを堆肥場に持って行きます。
当園は開園時から循環型を目指していて、ゾウに限らずサイやカバ、キリンなどのうんちはみんな堆肥場に集め、発酵させて堆肥にしています。これを販売できるよう製品化もしていて、近くの農家さんに畑にまいてもらったり、愛媛県の果樹試験場や農業高校に使ってもらったりしています。ほかに、動物舎の掃除や樹木、草花の散水には雨水などを使った処理水を使用しています。
人間に接するように、細やかにケアする
――食事の世話や排せつ物の処理はもちろん、飼育員さんの仕事は実に細やか。常に動物の様子に気を配り、細かな変化も見逃さない。
日々の飼育で注意しているのは「人間に接するように細やかに見ていく」こと。動物たちが頼ることができるのは私たちしかいません。その中でご飯はちゃんと食べているか、排せつはどうか、下痢はしていないか、けがはしていないか、爪は伸びていないかなど、生活のすべてを見ています。
彼らは赤ちゃんと一緒でものを言いませんから、それを汲み取りながら私たちがすべてをまかなう必要があります。だから、爪も伸びすぎれば私たちが削る。人間に慣れていない動物たちなら麻酔をかけて対応しますが、動物園ではゾウをトレーニングして馴致します(ハズバンダリートレーニング)。たとえば、足を台の上に乗せるように訓練して爪を切ったり、採血の訓練もします。これによって、血液成分の異常の有無や、血中のホルモンから排卵や妊娠などがわかります。
ハズバンダリートレーニングは普段の行動から教えていきますが、いい行動をしたらちょっとエサをあげる。すると、こういう行動をするとご飯をもらえる、ほめられる、と覚えるので、自主的にその行動ができるよう慣らしていきます。それによって、ゾウが壁沿いに体を寄せてくれたり、檻の隙間から耳を出してくれたり、足を出してくれたりするので、爪を切ったり、採血したり、触診したりできるわけです。
ピーク時から飼育数は半分以下。動物園のアフリカゾウの将来は?
――日本国内のアフリカゾウの飼育数は現在、30頭弱。ピーク時には60頭程度がいたので、半減以下の数字だ。
国内のアフリカゾウは動物園140年の歴史の中で繁殖に成功した例が12例。そのうち3例が当園です。たとえば、キリンは多摩動物公園で140年の間に130~140頭生まれているので、この差は大きい。
難しいのはオスのゾウを飼うということです。オスは体が7トンぐらいになるので、動物園で扱うのはなかなか難しく、昔の動物園はメスだけを飼育してきた歴史があります。すると、オスとメスの性比のバランスが悪くなり、なかなか繁殖に結びつかなかったことが減少の一因だと考えられます。
オスが成獣になった時に施設が追い付かないこともあり、安易に飼おうとして飼いきれるものではありません。しかし、最近の動物園でゾウを飼育しようとしているところは、オスを安全に飼育できる設備を設けています。アフリカゾウを飼育している全国の動物園は今後も協力して繁殖に取り組むなど、日本のゾウのことを考えていく必要があります。
また、ゾウは体が大きいので輸送も難しい。今、国内で彼らを輸送できる箱がなかったり、道路の規定があったり、クリアしなければいけない点がたくさんあります。それに加え、群れで飼わないと繁殖しないと言われていますが、飼育の技術や現場の人間がその理由に逃げているところも、数が増えない原因では?とも感じています。
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