コーヒーで旅する日本/関西編|空想を形にした独自の世界観で魅了。「CINEMA COFFEE ROASTERS」が描く、コーヒーから始まる夢のストーリー

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

店内ヨーロッパの田舎町の映画館をイメージ。アンティークの映写機やカメラ、照明など細部にまで、時代を越えた世界観を再現


関西編の第80回は、兵庫県西脇市の「CINEMA COFFEE ROASTERS」。小高い丘に立つ店の中に広がる、古い映画館をイメージした空間は、店主の森さんが描く空想のストーリーを形にしたもの。「ここならではの体験を持ち帰ってほしい」との思いから生まれた、細部にまでこだわったユニークな世界観は、開店以来、地元の厚い支持を得て、早くも市内に4店を展開するまでに。森さんにとって、まったくゼロから立ち上げたコーヒーショップは、お客もスタッフも含めて、コーヒーを通じた地域のつながりの輪を広げる場。多くの人を惹きつける、この店のストーリーをたどってみよう。

店主の森さん


Profile|森慶太(もり・けいた)
1977年(昭和52年)、兵庫県西脇市生まれ。大学卒業後、関東で過ごした18年の間に、バーテンダーや音楽制作、写真・デザインなど幅広い仕事に携わる。その後、コーヒーを通じて人と人が繋がる場所作りを志し、家業の塗装会社に勤める傍ら専門学校でコーヒーの焙煎を習得。2021年、自社の倉庫を改装して「CINEMA COFFEE ROASTERS」を創業。2022年に加東市に「CINEMA COFFEE TERMINAL」、2023年に西脇市に「CINEMA COFFEE UMBRELLA」、2024年に三木市に「CINEMA COFFEE FIELD」を相次いでオープン。各店でワークショップやインターンシップを開催し、コーヒーを通じた地域・福祉の支援に積極的に取り組んでいる。

将来、我が子と一緒に仕事をできる場所に

街を見晴らす高台は、地元でも知る人ぞ知るロケーション

“日本のへそ”とも称される、兵庫県中部の西脇市。加古川流域に開けた街は、古くは播州織の産地として栄えた、北播磨の中心的存在だ。2020年にオープンした「CINEMA COFFEE ROASTERS」は、里山ののどかさも残る市街を一望する高台にある。「自分にとっては、子どものころから見慣れた風景でしたが、開店してみて、意外に地元の人も知らなかったという声を聞きます」という店主の森さん。実はここは、森さんの実家でもあり、家業の塗装会社の倉庫だった場所。いまや、その面影も感じさせない、レトロな空間へと生まれ変わった。

森さんの頭にあったイメージは、ヨーロッパの田舎町の映画館。あの名作「ニュー・シネマ・パラダイス」の世界から、インスピレーションを得た。「古い映画館の跡でコーヒー店を始めたという、空想のストーリーを形にしたのが、この空間。映画を観に行くときと同じようなワクワク感を持って、日常から離れた異空間として、ここでの体験を持ち帰ってほしい」と、半年かけて内装の細部にまで趣向を凝らした。店内のあちこちに置かれた、アンティークのカメラや照明といったプロダクトはもちろん、エイジング塗装を施した壁や床も、年季を経た味わいを醸し出す。「昔から、ヒビとかサビとか、人の生活の後にできる経年変化を見るのが好きで(笑)」という森さんの時を経たものへの愛着と、塗装の技術が作り上げた異空間だ。

販売用の豆はすべて試飲が可能。シングルオリジンは今後も種類が増える予定


森さんの豊かなイマジネーションを培ったのは、さまざまな仕事を経験した東京での14年間。当時はバーテンダーとして、お酒と共にコーヒーも提供する傍ら、音楽や写真、デザインなど、クリエイティブの仕事も幅広く携わっていたという。形のない空想やイメージを表現してきたことが、この店の発想の土台にある。その後、結婚を経て、家族ができたことで訪れた、大きな心境の変化が、「CINEMA COFFEE ROASTERS」誕生の原点となった。「子どもが先天的なハンディキャップを持っていて、先々を考えて、この子と一緒に働ける場所を作りたい、同じ境遇の子どもたちの居場所になるように、という思いが最も大きな動機としてあります。最終的にはその場所を、いろいろな仕事のなかで培ってきた自分の世界観を表現できる、集大成にできればと思ったんです」

バラエティに富んだ豆から選べる、ドリップコーヒー(500円)


誰もが楽しめる趣向に満ちたコーヒー体験

店内の雰囲気に合わせた年代物のプロバット焙煎機は、奇しくも「ニュー・シネマ・パラダイス」の公開と同じ年に製造された機体

とはいえ、ゼロからの店作りは、森さんにとっても初めてのこと。コロナ禍のなかで、地道に開業準備に取り組んだ。「開店まで、一人で工事の進捗を、SNSにずっとアップしていました。特に自然な変化を表現する壁の加工はものすごく手間がかかるもので、この作業は恐ろしく面倒とか、とんでもなくキツイとか言いながら(笑)。すると、しばらくすると応援してくれる方が増えてきて、開店の日は大勢のお客さんが来てくれて、予想外のことにびっくりしました」。最初は森さん一人で始めるつもりだったが、すぐに手が追い付かなくなり、従兄弟に手伝ってもらい、さらにつてを頼ってスタッフも徐々に増えていった。といっても、基本は地元の人々であり、コーヒーの仕事はほぼ未経験。研修を兼ねて始めた月1回のスタッフ勉強会を今も続け、今ではメニュー開発を任せられるまでになっている。

エスプレッソは浅煎りと中深煎りの2種の豆を常備。メニューによって使い分ける


森さん自身も、元々コーヒー好きではあったが、ロースターとしてはゼロからのスタート。焙煎を学ぶべく大阪の専門学校に通って指導を受け、独自にシェアローストも活用して経験を積んでいった。「最初は苦労しましたが、繰り返すなかで自分なりの感覚がつかめてきたと思います。今も、専門学校時代の講師だった方を招いて、スタッフ向けのレクチャーもしてもらったり、都心から離れていてもコーヒーの最新事情やトレンドを学べる環境を作っています」

現在、豆の品ぞろえは、定番のブレンド3種、シングルオリジンは10種近くをそろえるが、まだこれから増えていく予定だとか。西脇では初と言っていい、スペシャルティコーヒーの専門店、地元の嗜好の違いもあるが、「試飲してもらったら、浅煎りのコーヒーがすごく好評で。喫茶店文化が根強い地域ですが、飲んでみたら意外といけるなという声も多いですね」と森さん。お客のコーヒーへの好奇心を促すのは、あるいはこの異空間がもたらす気持ちの高揚にあるのかもしれない。

キッズ用カップは、イラストが得意なスタッフが1つずつ違う絵柄を考案


アレンジドリンクも、そのきっかけの一つとなるもの。淡路島・平岡農園のレモンと、浅煎りコーヒーの風味を合わせたリッチレモンエスプレッソ、香り成分が通常の3倍と言われる高知黄金ショウガの芳香満ちるジンジャーラテなど意外な取り合わせと印象的な味わいが評判に。さらに、地元の酒蔵から仕入れる酒粕や、特産のいちごや桃、サツマイモなど、旬の地元食材とのコラボメニューが季節ごとに登場。早くもファンを広げ、名物メニューになるものも。また、子ども用のカップには、一つ一つ手描きのイラストを描いて提供。空間ばかりでなくメニューにも、世代を問わず楽しめる体験がある。

高知県産黄金生姜の自家製シロップを使った、ジンジャーブレッドラテ(600円)。立ち上る生姜の爽やかな香気とほのかな刺激がミルクの甘さを引き立てる


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