コーヒーで旅する日本/四国編|思わぬ挫折がもたらしたコーヒーとの出合い。紆余曲折を経て「Landscape coffee37」ができるまで

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。瀬戸内海を挟んで、4つの県が独自のカラーを競う四国は、各県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

窓からの明かりが心地よい奥行きのある店内は、レトロな雰囲気を生かした心和む空間


四国編の第9回は、瀬戸大橋の四国側の玄関口、香川県坂出市の「Landscape coffee37」。2020年の開業以来、地元客から遠来のお客まで訪れる新たな憩いの場として、支持を得ている。実は、この店がオープンするまでには、店主・石川さんの大きな挫折があった。それでも、コーヒーとの出合いを機に、独学で道を拓き、多くの人の縁を得て構えた店は、いまや香川のコーヒーシーンに新風を吹き込む存在に。紆余曲折を経た石川さんが、心機一転、地元で取り組む新たな試みとは。

店主の石川さんと母の貴美さん


Profile|石川翔一郎(いしかわ・しょういちろう)
1991年(平成3年)、香川県坂出市生まれ。東京の大学を卒業後、就職活動での紆余曲折を経て、自由が丘のコーヒー店・茶乃子に勤務。以来、独学でコーヒーの勉強を重ね、定期的に香川で出張喫茶を出店。その後、川崎市のカフェバーに転職して、店舗立ち上げや店長業務を経験した後、坂出に戻り、2022年、「Landscape coffee37」を開業。香川コーヒーテーブルのスタートメンバーとして、地元のコーヒーシーンを盛り上げる活動にも力を入れる。2024年に2号店となる焙煎所「ヨル。」もオープン予定。

コーヒーとの出合いは、学生時代の思わぬ挫折から

白壁にアーチ形の大きな窓が印象的な店構え

本州と四国を結ぶ瀬戸大橋の、四国側のたもとにあたる坂出市。港町から工業地帯として開けた市街には、モダンな施設や商店の建築が点在している。「Landscape coffee37」の店構えも、そんな建物のうちの一つ。外から目を引くアールのついた入口の意匠、大きく開いたアーチ形の窓が印象的だ。「ここは元々喫茶店で、閉店後、カウンターだけが残されていました。最初に見に来たときに、広い窓が素敵やなと感じて。カウンターに立つと、通りを行き交う人の動きも見えて、“ああ、ここやな”と決めたんです。最初は高松でも探したものの見つからず、地元に範囲を広げた途端にポンと見つかった。物件は出合いだと思いました」と店主の石川さん。開店から1年半ながら、かつての喫茶店の雰囲気を生かした、肩肘張らない空間は、界隈で早くも支持を得ている。

とはいえ、「以前は、自分がコーヒー屋をやろうとは思ってもみなかったですね」という石川さんが、この店に立つまでの道のりは紆余曲折。コーヒーとの出合いも、まさしくほろ苦いものだった。実は、学生時代を過ごした東京で、そのまま就職するはずだったが、「採用の過程でトラブルがあって、入社が叶わなくなったのが3月。とにかくアルバイトするしかないと思って、たまたま降りた自由が丘の駅前で入った喫茶店の求人を見て、店に事情を話して働き始めたんです」。そのとき、石川さんが入ったのは、自由が丘で40年続く喫茶店・茶乃子。面接の際に出してもらったコーヒー、エチオピア・イルガチェフ・ウォッシュドは、石川さんにとって忘れられない味であり、今も好きなコーヒーの一つだ。

「今もどんどん増えています」という壁のステッカーは、石川さんが訪れた店やアーティストとの出会いの跡


思わぬマイナスからのスタートとなったが、この一杯が転機となって、以降、石川さんはコーヒーの道に没頭。週に6日の勤務に加えて、さらに独学で知識と技術を蓄積した。気付けば1年近くが経ち、再び就活することを忘れてしまったほどの熱の入れようだった。

「就職か、コーヒーか選択に悩みましたが、コーヒーの仕事なら地元に戻ってもできるかもしれないと思って、コーヒーを仕事にすることに決めたんです」と振り返る。そう腹をくくってからは、茶乃子で働きつつ、手回し焙煎機を購入して、独自に自家焙煎にも着手。個人ロースターとして屋号を決めて、SNSでの発信を始めた。幸い、高松のイベントスペースで定期的にコーヒーを淹れる場を得て、月に一回出張喫茶として出店。その間、茶の子から川崎市のカフェバーに移り、新店の立ち上げや店長の仕事も経験した。

「先々カフェをやるために、近い業態のノウハウを学ぼうと思って。コーヒーを扱う新旧の業態を体験して、土地柄に合わせた店作りの大切さを実感しました」と石川さん。東京と高松の2拠点生活は8年に及んだが、年々、独立したいとの思いは募っていった。

「市役所の前で地元の方が多いかと思っていましたが、蓋を開けてみれば、半分は市外・県外のお客さん。思っていたのと違う客層でした」と石川さん


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