コーヒーで旅する日本/九州編|飾らず、目立たず、ひっそりと。細路地に空気のように馴染む「珈琲人町」

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

店は飾らない雰囲気だが、随所に店主・竹下雅哉さんのセンスが光る

九州編の第72回は長崎市にある「珈琲人町」。2005年(平成17年)7月オープンというから、まもなく丸18年。意外だったのが同店の店主・竹下雅哉さんの「うちが開業した当時、長崎市内にはコーヒーをメインとした店は少なかったと思いますよ」という一言だ。

長崎市内というと日本の「和」、中国の「華」、オランダの「蘭」が交わった“和華蘭文化”が根付いているイメージがあったこと、さらにミルクセーキなどをウリとした純喫茶も多いことから、コーヒーは暮らしに身近なものだろうと勝手に想像していた。ただ実際は喫茶店の1つのメニューに並ぶ程度の存在感。 And Barissier の店主・井手さんが「10数年前、長崎に帰省したとき、自家焙煎店などコーヒーを柱とした店がなかなかなくて」と話していたことも納得できる。

18年前の創業時から抽出はサイフォン一本

「そんな土地で自家焙煎コーヒーで勝負して、18年も店を続けているのはすごいことですね」と伝えると、竹下さんは「日々繰り返していたらなにか見えてくるものがあるだろうと、のらりくらりと続けてきた感じでして。開業当初もすぐにものになることはないと思っていたから、本当にいつの間にか18年経っていたな、という感覚です」とはにかむ。最初からそんなやり取りで、不思議とどこか居心地がよい。取材時も近隣で働いていると思われる人たち、海外からのツーリストなど、さまざまな人々がふらりと訪れ、それぞれ思い思いの時間を過ごす「珈琲人町」。素直に「こんな店が近くにあったら」と思わせるステキな店を見つけた。

店主兼ロースターの竹下雅哉さん

Profile|竹下雅哉(たけした・まさや)
長崎県長崎市生まれ。大学在学中に染色の仕事に興味を持ち、福岡県朝倉市の工房に就職。およそ3年間働く中で、コーヒーに日々親しむようになり、コーヒーに携わる仕事に惹かれる。福岡市にある老舗喫茶、珈琲舎のだに入社し、抽出、サービス、そして焙煎について約4年間みっちり学ぶ。2005年(平成17年)、トラックでの移動販売から「珈琲人町」を立ち上げ、今に至る。

ほどよく往来がある細路地にて

車はほぼ通らない細い路地にある「珈琲人町」

「珈琲人町」があるのは通称「ししとき川通り」と呼ばれる細路地。人通りが決して多いわけではないが、往来が完全に途切れることはほぼない、ちょうどいい感じの空気感。店はコーヒースタンド風の造りだがテラスにベンチを備えており、イートイン利用の場合テラスでくつろぐ客が多い。
なにより訪れて感じたのが、町への絶妙な開け具合。店は通りに面し、初めてその通りを歩いてみると思わず店に目が向くはずだ。そんな店構えもあって、ふらりと立ち寄る一見さんは多いという。

サイフォンでの抽出は開業当時から

メニューは自家焙煎店らしく、9割がコーヒー系ドリンク。メインのホットコーヒーの抽出は開業当時から綿素材のネルを使うサイフォンだ。綿ネルを選んでいる理由はコーヒーが持つ油分を適度にカップに落とすことができ、とろりとした質感を出すことができるから。さらにテラスでのイートイン利用が多いだけに、できあがりの温度が高いサイフォンを選んでいるという。

さらに竹下さんのバックボーンを紐解いていくと、サイフォンを選んだきっかけ的なエピソードを聞くことができた。

人町ブレンド ホット(1杯450円)。カップは陶芸家の奥さん作

「私はもともと大学在学中に染色の仕事に興味を持ち、そのまま福岡県朝倉市の工房に就職しました。そこで仕事の合間に飲むコーヒーが最高においしくて。そこから強くコーヒーに惹かれたんです。そうなるともうコーヒーの業界に飛び込みたくなってしまい、福岡市内にある老舗喫茶、珈琲舎のだの門を叩きました。それが私のブリュワー、ロースターの原点。同店ではサイフォンで抽出していましたから、それもあって独立する際、サイフォンを選んだというのもあります」

およそ4年半、珈琲舎のだで研鑽を積んだ竹下さん。ほかにも喫茶店であれば選択肢はあったと思われるが、なぜ珈琲舎のだで働くことにしたのか。「なんというか珈琲舎のだってすごく店全体の雰囲気がビシッとしていて。襟を正されるというのでしょうか。そんな空気感がここで働きたいと思わせました。ここだったらしっかりコーヒーのこと、接客のことを学ばせてもらえると感じたんです。まぁ、面接いただいた方が偶然同郷で、それもあって運よく採用いただけたというのが大きいですね」と竹下さんは笑う。

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