コーヒーで旅する日本/九州編|日本一の称号に頼らず、本質を求めて。2人で歩むことを決めた「珈琲カド」

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

焙煎は独学。比較的深めに焼くことが多い

九州編の第57回は、熊本市南区城南町にある「珈琲カド」。郊外にある住宅の一角を焙煎所兼店舗にし、車でしか行けないような立地だ。「珈琲カド」のスタートは無店舗にて2021(令和3)年11月から。実店舗がオープンしたのが2022(令和4)年1月とオープンしてまもないが、すでに熊本のコーヒー好きの間では知られた店になっている。その理由の一つに店主の久保田洋平さんの経歴がある。ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップ2017の優勝者。つまりハンドドリップの技術を競うコンテストで日本一の栄冠を手にしたということで、九州はもちろん全国的にその名は知られている。ただ現在、久保田さんはその経歴を表立ってアピールしていないという。そこにはコーヒーとは違った側面から飲食、サービスを突き詰めてきた、共同経営者の樋口良太さんの存在が大きく関係している。「珈琲カド」が目指すコーヒーに、業界やトレンドに追従しない新たな挑戦を垣間見た。

樋口良太さん(左)、久保田洋平さん(右)

Profile|久保田洋平(くぼた・ようへい)
1989(平成元)年、熊本県熊本市生まれ。福岡市内のダイニングバーで働いたのが飲食の世界の入口で、その後、熊本市の老舗喫茶店、岡田珈琲でバリスタとして約10年腕を磨く。2017年のジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップで優勝。2020(令和2)年春に岡田珈琲を退職。2021(令和3)年11月に「珈琲カド」を立ち上げる。

Profile|樋口良太(ひぐち・りょうた)
1989(平成元)年、熊本県熊本市生まれ。久保田さんとは小学校からの幼馴染で、社会人になってから、より親交を深めた。ホテルマンを養成する専門学校に通いながら、フレンチレストランでギャルソンを経験。その後、関東で就職し、星野リゾートが運営する宿泊施設や横浜ロイヤルパークホテルなどで、サービスマンとしての技術、知識を蓄える。2022(令和4)年1月、「珈琲カド」が実店舗を開くタイミングで、久保田さんの誘いもあり、ともに働き始める。

焙煎がやりたいという思いを形に

自宅に併設した焙煎所兼店舗

ハンドリップチャンピオンの久保田さんが店を開業したと聞いた時、勝手なイメージで昔ながらの喫茶店、もしくは久保田さんが淹れたコーヒーを絶対的な柱としたカフェを想像した。ただ、「珈琲カド」を訪れると、自宅に併設した小さなスペースで、店はどちらかというとコーヒースタンドのような雰囲気。これには正直驚かされた。しかもドリンクを提供するよりも豆売りがメインだという。久保田さんの経歴を考えるならば喫茶店やカフェが正攻法のような気がするが、なぜあえて豆売りを柱にしたのか。

久保田さんはジャパンハンドドリップチャンピオンシップ2017で優勝

「前職の喫茶店では約10年勤めました。その間、私がやってきたのは、ただひたすらお客さまにおいしいコーヒーを淹れることと、お客さまにとって居心地のいい空間を作ること。焙煎に関しては一切ノータッチだったんですね。コーヒーを毎日淹れていると、自然と焙煎をしてみたいと思うようになり、焙煎に挑戦するために独立を考えました」と久保田さん。

今は亡き久保田さんの母親が営んでいた雑貨店cadeau(カドゥー)が屋号の由来

退職金で購入できる中古の焙煎機を探し、手に入れたフジローヤルの半熱風式の1キロ窯。これが「珈琲カド」の第一歩となった。焙煎経験はゼロだった久保田さんだが、焙煎を始めて1年を経た今、着実に知識・技術は磨かれている。淹れてもらったハウスブレンドのカドブレンドは豆由来のフレーバーを強く感じられ、香り高く、バランスもとても良い。やはり一流のバリスタとして“おいしい”“おいしくない”、“バランスに秀でている”“個性が際立っている”といった確かな味わいの指標があるのは大きいと感じる。

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