2008.9.22 VOL.32
ミニシアター東京都

ポレポレ東中野

中野区東中野4-4-1ポレポレ坐ビルB1F TEL.03(3371)0088 駐車場なし
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天井が高く、スクリーンが大きな劇場内。客席はかなりの角度があるので、前方のお客さんの頭に悩まされる心配がない。また、常設のバリアフリー席やバリアフリートイレも用意してある

過去の大入り袋ベスト3
2008.9.22現在
1位「赤目四十八瀧心中未遂」
2003年10月25日〜2004年9月5日
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2位「ひめゆり」
2007年5月26日〜

3位「三池 終わらない炭鉱(やま)の物語」
2006年4月1日〜2006年6月2日 ※その後もアンコール上映あり




シックな雰囲気のロビー。パンフレットや関係図書も販売。上映後には監督がロビーにいることが多いので、映画の感想や質問を気軽に投げ掛けてみよう。意外な制作裏話が聞ける可能性あり


階段とロビーには、いかにもポレポレって雰囲気の絵画が飾ってある。劇場オーナーである写真家の本橋成一氏の友人であるイラストレーター・スズキコージ氏の作品。最近のシネコンにはない、文化的な落ち着きが漂う


10月4日(土)から公開されるドキュメンタリー「フツーの仕事がしたい」。“現代の蟹工船”トラック運転手の過酷な労働の様子をカメラが追う
支配人が語る、ポレポレ東中野

支配人 大槻貴宏さん

1967年長野県生まれ。成城大学経済学部卒業後、コロンビアカレッジ・シカゴ映画ビデオ学科に2年間留学。帰国後、東京ビジュアルアーツの講師を経て、1999年に日本初の短編映画専門館トリウッドの代表に。2003年3月のBOX東中野閉館に伴い、公募により5月から新劇場の支配人に就任。9月にポレポレ東中野を開館し、現在に至る。
●好きな映画 「クーリンチェ少年殺人事件」(’91)
●好きな監督 ジョン・ダイガン
●好きな俳優 ♂チョウ・ユンファ ♀ファラ・フォーセット

「当館ではドキュメンタリーやインディペンデント系の映画を上映する機会が多いのですが、配給会社の付いてない作品の場合は、監督たちとどうやって宣伝、公開していくか一緒に話し合うことからやっています。トーク・ライブなどのイベントが数多く組まれるのは、監督たちの『ひとりでも多くのお客さんに観て欲しい』という熱い気持ちの表れです。食事や買い物のついでに映画を観る新宿や渋谷の映画館と違って、わざわざ東中野に来ていただくので、モーニングショー、レイトショー、特集上映など、1日でいろんな作品が鑑賞できるようプログラムを組んでいます。シネコンでは上映してない隠れた名作を、ぜひお客さまの目で見つけてください」

沢尻エリカ、松山ケンイチの初期熱演作から
ドキュメント、ピンク映画まで幅広く上映


 クラスにひとりはいる、流行に流されずマイペースで独自の道を突き進んでいるヤツ。決して品行方正、成績優秀ではないが、教師や番長からも一目置かれている気になる存在。ポレポレ東中野をクラスメイトに例えると、そんな感じだろうか。
 “ポレポレ”とはスワヒリ語で「ゆっくりのんびり」という意味。まさに名は体を表す。JR東中野駅は中央線快速に乗ると停まらないので注意したい。各駅停車の総武線に乗って東中野駅で降りると、ポレポレ東中野がホームから見えてくる。社会派ドキュメンタリーから、沢尻エリカのデビュー作「問題のない私たち」(2004)、松山ケンイチの初主演作「不良少年の夢」(2005)などのレアもの映画の封切り、女池充(めいけみつる)監督作「ビタースイート」(2004)、いまおかしんじ監督作「たそがれ」(2007)など名作ピンク映画の上映など、個性的で幅広いプログラムを組んでいる劇場だ。

 イベント・スペースとして利用されるカフェ「ポレポレ坐」が入ってるビルの地下がポレポレ東中野となる。階段を降りていくと、名物支配人の大槻さんが待ち構えていた。大槻さんは元々は下北沢トリウッドの代表で、2003年9月にポレポレ東中野がオープンする際に公募によって選ばれ、以後トリウッドとポレポレの2館の運営をしているのだ。
 ポレポレの前身にあたるBOX東中野(1994〜2003)はドキュメンタリーを上映する先駆的なミニシアターだったが、2003年3月に惜しまれつつ閉館。その後を継ぐ形で、大槻さんは大劇場では扱いにくいインディペンデント系の問題作、話題作を積極的に上映している。
「おかげさまで、ポレポレとして5周年を迎えることができました。イベントなどで熱心に劇場を盛り上げてくれた監督や映画関係者、それに何よりも東中野まで足を運んでくれたお客さまに感謝ですね。よく、『ポレポレはどういう基準で作品を選んでいるの?』と尋ねられますが、基準は作品の善し悪しではなく、つくっている人間の熱さなんです。作品が良いのは当然であって、その上で監督たちが『たくさんの人に観て欲しい』という気持ちを持っているかどうか。そういう熱意を持っている監督の作品は、公開もうまくいくものなんです。この5年間、監督たちといい感じで付き合いができ、支配人として恵まれているな、幸せだなと思っています」

 ポレポレの5年間を振り返ってもらったところ、大槻さんはキーになった映画として3本のタイトルを挙げた。荒戸源次郎監督の「赤目四十八滝心中未遂」(2003)、テレビ番組「ザ・ノンフィクション」から生まれたドキュメンタリー映画「HARUKO」(2004)、そして若松孝二監督の「17歳の風景」(2005)だ。
「オープンしてすぐに荒戸さんと仕事ができたことは大きかった。荒戸さんはシネマ・プラセット(期間限定の仮設映画館)を造るなど興行形態に徹底的にこだわる人。実はここポレポレはスクリーンに対して映写室が上にあるため、どうしても微妙な歪みが生じるんです。構造上どうしようもないんですが、そのことはずっと指摘され続けたし、他にも厳しいことをずいぶん言われました。その一方で、『オレが劇場に来ていることを観客にアナウンスしろ。そうすれば、サイン用にパンフレットを買い求める人もいるだろう』など申し出てくれるんです。荒戸さんにはショー・ビジネスの基本をいろいろと教わりましたね」




 10月から公開した「赤目〜」は映画賞シーズンの2〜3月をにらんでの大ロングラン上映を当初から予定。結果、ブルーリボン賞ほか30以上の映画賞を受賞し、荒戸監督が連日のように詰めていたポレポレは大にぎわいとなった。2年目に上映した「HARUKO」は一転して、フジテレビというメジャーな配給会社と提携した。
「さすがフジテレビ、作品に寄せられた著名人のコメントが豪華でした。漫画家のつげ義春から中曽根元総理まで。これがメジャーであることの幅の広さなのかと驚きました。自主制作の監督の中には『マイナーであることの誇り』を持っている人が少なくなく、ボクは『たくさんの人に観てもらう努力も必要だよ』とよく釘を刺すんですが、このとき改めて今までの自分自身にもどこか甘えがあったんじゃないかと自問しました。これをきっかけに、『メジャーの良さとインディペンデントの良さを掛け合わせていこう』と考えるようになりましたね」

 そして3年目はインディペンデント界の帝王・若松孝二監督の「17歳の風景」を上映。
「若松監督は豪放な性格のように見えますが、とても予算管理のしっかりされている方。いい意味での倹約家で、生きたお金の使い方をされるんです。オールナイトで上映する作品のフィルムを若松プロにお願いしたところ、若松監督本人が自転車でフィルムを運んできたんです。『宅配代を節約できるし、ついでに打ち合わせもできるだろう』というんですよ(笑)。それに『17歳の風景』の公開初日に、赤飯のおにぎりを自分でにぎって劇場に届けてくれたんです。おにぎりの形はバラバラでしたが、『人を動かすということは、こういうことか』と感激しましたね」

 映画界きってのこわもての若松監督が、劇場スタッフのためにせっせと赤飯のおにぎりを握っている姿は、想像するだけで微笑ましい。いろんな監督、映画関係者との付き合いで、ポレポレは今も成長しているようだ。


え? 重度障害者が犯罪者役の劇映画!?
ポレポレ発「おそいひと」が全国的ヒットに


 ポレポレ東中野の劇場に入ると、わずか100席のミニシアターとは思えないシネマスコープサイズの大きなスクリーンが飛び込んでくる。また客席が傾斜のあるスタジアム形式になっているため、よりスクリーンが近く見える。音響もライブハウスばりの充実した設備だ。
「100席というキャパは、都内のミニシアターとしては丁度いい大きさでしょう。これが200席になると、劇場を稼働させ続けるのが難しくなるんです。それに、このぐらいの大きさなら生トークなどに慣れていない若い監督も緊張せずに舞台に上がることができますし、上映後にロビーでお客さんとコミュニケーションすることもできる。自主制作の監督の中には『人と話すのが苦手』という人もいますが、トークの経験を積むことで自分の伝えたいことが明確になっていくし、いろんな人からの批評を受けることで、さらに外に向かっていけるようになるんです。そういった体験は、次の作品づくりにも大きな影響を与えると思います」

 若松孝二監督や小栗康平監督などの特集上映を組む他、女性が入りやすいようポスターやフライヤーなどのビジュアルに気を配ったピンク映画の特集上映も好評を博している。
「ピンク映画は、2005年に女池充監督の『花井さちこの華麗な生涯』(2004)をレイトショーで上映したのが最初でした。シュールなコメディの『花井〜』だけではキビシイなぁと悩んでいたところ、その前に撮った『ビタースイート』(2004)が優れた人間ドラマだったので、2本続けて上映することにしました。タイプの違う2作品をプログラムすることで、女池監督の面白さが打ち出せたと思います。口コミで評判が広まって、『ビター〜』の最終日が近づくと満席状態になりましたね。いまおかしんじ監督もピンク映画の方ですが、素晴らしい作品を撮っています。うちでは『かえるのうた』(2005)、『たそがれ』(2007)などを上映しました。シニアの性を描いた『たそがれ』はあえてモーニングショーを組んだのですが、年配のご夫婦が満足げに帰っていく姿を見て、うれしさのあまりにボクも涙が出そうになりました。プログラムの組み方次第で、ずいぶんお客さんの反応が違ってくるものなんです」

 最近のポレポレで賛否両論の大きな反響を呼んだ作品といえば、2007年12月に公開され3月までロングラン上映が続いた「おそいひと」(2004)だろう。この作品はドキュメンタリーではなく、重度の身体障害者が犯罪者役を演じるという衝撃的な内容の劇映画。ポレポレで封切り後、全国へと拡大公開が続いている。
「正直にいうと、ボクも最初は『おそいひと』の公開には躊躇しました。『こんな反社会的な映画を上映するなんて』と反発されるんじゃないかと心配でした。そこで主演した住田雅清さんや身体障害者の団体の方などに会ったのですが、彼らはこの作品のことを好意的に受け止めていたんですね。内容が内容だけに一部のマスコミでしか紹介されませんでしたが、障害者の方に呼び掛けてのシンポジウムや介護者や福祉系の学生を無料にしての上映会など開き、『なぜこの作品はヤバいと思ってしまうのか』を考えてもらうことに努めました。ネットで噂が広がりヒットした作品ですが、その発火点になることはできたかなと思っています」

 海千山千のインディペンデント系監督や野心を持った若い監督たちとの打ち合わせに追われ、またトリウッドのある下北沢と東中野を往復する日々のため大槻支配人はいつも忙しそう。「いやいや、他の劇場スタッフがしっかりしているから、ボクは監督たちとつるんでたり、ふらふらしていられるんです」と大槻支配人はニコニコ顔で答える。大槻さんの笑顔、なんだかポレポレって感じです。

(取材・文/ライター長野辰次)


これからのラインアップ

 9月20日(土)〜10月3日(金)、11月1日(土)〜14日(金)は「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー山形in東京2008」が開催される。これは2年に1度開かれている「山形国際ドキュメンタリー映画際」にこれまで出品された中から選りすぐり作品を東京でお披露目する、BOX東中野時代からの恒例企画。同映画祭で2003年度の大賞を受賞した「鉄西区」(2003)の全6時間一挙上映の他、マスコミを大きくにぎわせた「靖国 YASUKUNI」のリ・イン監督の初長編作品「2H」(’99)など注目作が目白押しだ。
「世界中のドキュメンタリーが一堂に会するので、さまざまな表現、問題などを知ることが出来るのが第一の面白さです。また、フィクションだけでなく、ドキュメンタリーも邦画の方が元気は良い気がします。しかし、それによって、視点や考え方に偏りが起こりうる可能性もあると思うので、変な偏りないだろうか、世界中のいろんな作品を見て、再確認するのも楽しいのではないでしょうか」と大槻支配人。
 10月4日(土)から公開されるドキュメンタリー映画「フツーの仕事がしたい」も大槻支配人のおすすめ。「トラックの運転手を主人公にした社会派ドキュメントですが、まるでアクション映画を観ているような面白さがあるんです」と語る。ドキュメントだけでなく、10月25日(土)からはAV界の演技派女優・吉沢明歩が主演した「デコトラギャル奈美」といったユニークな娯楽作品も。シネコンではお目にかかれない作品がずらりと並ぶ。

割引&システム
●サービスデー&タイム
一般¥1500
大学¥1300
高校¥1000
中学¥1000
小人¥700
シニア¥1000
身障者¥1000
※23:00以降に終了する作品は18歳未満入場不可
サービスデー(毎月1日)¥1000
身障者付添者¥1000
回数券(5回券¥6000 10回券¥10000)

●定員制:有 入替制:有
設備DATA
●スクリーン・サイズ
縦3.43m×横5.7m
●座席
フードDATA
●MENU
クッキー \170
バリアフリーDATA
劇場までの段差:有り
バリアフリー席:有り
バリアフリー・トイレ:有り
16mm、ビデオもOK。自主映画の配給もやります!

 ポレポレ東中野のオーナーは、写真家であり「ナージャの村」(‘97)、「アレクセイと泉」(2001)などのドキュメンタリー監督でもある本橋一成氏。本橋監督の「ナミイと唄えば」(2006)はポレポレ東中野の配給作品となる。また、「おそいひと」など配給会社の付いてないインディペンデント作品の多くは、ポレポレ東中野が配給・宣伝協力をしている。東中野から全国、そして世界へと映画を発信しているわけだ。映写室には35mm、16mmの映写機の他に、最新のビデオプロジェクターも装備。16mmしか残っていない旧作から、ビデオ作品まで対応できる。
 もうひとつ特筆したいのは、短編映画専門館トリウッド(客席50)と提携している点。トリウッドで好成績を収めた監督は次回作をポレポレで上映できるシステムを公表している。「新海誠監督、深川栄洋監督、吉田恵輔監督らはトリウッドでの短編上映をきっかけに大きくブレイクしましたね。本当はトリウッド、ポレポレでホップ・ステップ、そしてジャンプさせようという考えでしたが、ボクの想像以上に彼らの成長のほうが早かった(笑)。ま、映画業界にとってはいいことでしょう」とおおらかに笑う大槻支配人だった。


映写室の様子。見逃されがちだが、ポレポレの音響設備はライブハウス顔負けのもの。音楽映画やライブ演奏付きの上映を考えている監督にはオススメである