先輩に恋をした後輩の淡い恋心？視点を変えると、距離感バグのただの「勘違い男子」最後に見せた「執着」にゾッ！【作者に聞く】

理系大学・大学院の実情を描く理系女ちゃん( @rikejo_chan )の「先輩は綺麗な人だった」は、男性と女性2つの視点を描くことで「好意を寄せる側」と「寄せられる側」の認識の違いを描く。前半は先輩に恋する後輩の淡い恋心だが、後半で先輩の視点に変わるとその恋心は「恐怖」に変換されていく。一方的に好意を寄せられた先輩視点のラスト、あきらめられない呟きが波紋を呼び、Xで10万いいねの反響を集めている。

女性が圧倒的に少ない理系大学院で、盲目的な後輩の恋が暴走する

大学院の先輩を好きになった。見た目が美人だからだけではなく性格もいい。人気があるから、自分だけが特別扱いされているなんて自惚れてはいない。でも、先輩のことが好きだった。始まりは、そんな後輩の告白から始まる。

先輩に好かれたくて、彼は研究室でトップの成績を出した。その後、後輩は先輩を呼び出すが――。先輩には「ごめんなさい」と言われる。後輩の視点では「それでも忘れられない」実らなかった淡い恋の話で終わる。

後半、先輩の視点へと話が変わる。まずは、後輩の見た目。明るく真面目そうだった後輩は、小太りで目まで前髪に覆われ少し暗めの容姿に変わる。先輩の視点から見ると、後輩は「これまで対人経験を積んでいない人特有の距離感、テンション」という印象だ。

先輩視点に変わった途端、後輩のギャップに読者は驚きを隠せない。先輩のスマホにLINEが頻繁にくるようになり、好意を寄せられているのはわかっていても、粘着質な性格で対処に困っていた。その後、後輩は先輩を呼び出すが――。

一方通行すぎる「好意」。後輩は先輩の「恐怖」に気づかなかった

自分の感情だけで一方的に恋心を走らせてしまった後輩は、先輩の恐怖心に気づくことができなかった。「好意」を送る側と送られる側の温度差を描いた本作について、著者の理系女ちゃんに話を聞いた。

――まずは「理系」な話をコンセプトに描こうと思った理由を教えてください。

理系という言葉自体は誰しも耳にしたことがあると思います。しかし、理系学生の割合は大学進学者のうち35%(令和2年度推計)で、そこから大学院へ進学したりアカデミアに残る人はもっと少なくなります。理系に対する解像度が少しでも多くの人の間で高くなれば、もっと理系に興味を持ってくれる人が増えたり、現在アカデミアが抱える課題を解決できたりするのではないかと漫画の投稿を始めました。

――女性の視点に変わったとき、男性が盲目的だったことがわかっていくところがおもしろいです。男性と女性の視点の違いで、こだわったところあれば教えてください。

あくまでも男女それぞれの視点を描くことにこだわりました。人と人の関係は、誰かの視点が介入する以上主観を欠くことは難しいので、本作品はナレーションを入れていません。

――最後の「彼は謝った」のシーンは告白かと思ったのですが、これは告白をしているつもりだったのでしょうか？

読者の想像に任せたいです。本人は告白するつもりで先輩を呼び出したら先輩が怖がって同期を呼んでしまい、告白できなかった結果が謝罪になったのかもしれませんし、自分を避けるようになった先輩がほかの人といるときを狙って話しかけたら、うまく喋れなかったのかもしれません。

――理系の大学院をメインに漫画を描いていますが、「考え方が独特だなー」と思ったことはありますか？

理系大学院へ進学すると、研究で忙殺される人も少なくありません。外の人との関わりが減るので、所属する大学院や研究室の慣習を自身の常識に据えてしまう人も少なくないなと思います。実際漫画を描いていて、異なる所属や分野の方から厳しいコメントをいただくこともありますね。

――今後はどのようなを描いていきたいですか？

理系大学・大学院に関する作品を、いろんな角度から描いていきたいですね。最近はゆるっとした漫画を描いていますが、今後も理系大学・大学院での生活やアカデミア内の問題にまつわる話を投稿していきます。

後輩視点から見る先輩は「美人」で「かわいい」印象。恋をしていることで、世界が美化されているように描かれているのも特徴だ。相手をどういう位置づけで見ているかで、こうも内容が違う本作。ラストの「あきらめきれない」呟きを見た先輩は、背筋がゾッとするという結末だ。

取材協力：理系女ちゃん(@rikejo_chan)