コーヒーで旅する日本/九州編|“今、この瞬間を大切にする”を形に。ロースタリー「くつろぎ珈琲」は次のステージへ

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

若木台店の看板猫、ロギちゃんと小田さん

九州編の第60回は、福岡県福津市にある「くつろぎ珈琲」。JR東福間駅の東側に広がる、昭和期にできた新興住宅地の商店街に本店を構え、外観からどこかノスタルジックな雰囲気。店主の小田寛さんはこの住宅街で生まれ育ったというから、まさに地元だ。8年半ほど前にオープンし、今や若木台店と、福間海岸そばの宮司店の2店舗を展開。取材に訪れた若木台店はコーヒーショップとしては一見すると不利な立地だが、福津市を代表するロースタリーにまで成長した同店。着実にファンを増やしてきた店づくり、豆売り主体となった転換期について、そして今後どう変わっていこうとしているのかを聞いてみた。

店主兼ロースターの小田寛さん

Profile|小田寛(おだ・ひろし)
1979(昭和54)年、福岡県福津市生まれ。専門学校を卒業後、20歳からホテルマンに。23歳から勤め始めたイタリアンレストランで接客をするサービスマンとしての心構え、ホスピタリティの大切さを徹底的に学ぶ。高校時代からおぼろげに経営者になりたいという夢を抱いていたこともあり、コーヒーを独立・開業の柱に据えるべく、ロースタリーで働き始める。およそ1年勤務した後、34歳で「くつろぎ珈琲」を開業。

不利な立地でも少しずつファンを増やして

商店街としては一度寂れたが、現在は「くつろぎ珈琲」含め、いくつかの店舗が営業している

現在、福津市内に2店舗を展開する「くつろぎ珈琲」。本店にあたる若木台店があるのは、住宅街の一角。かつては鮮魚店や八百屋、ベーカリーなど、その地域に暮らす人々が日常的に利用する店が並んでいた小さな商店街に店を構える。JR東福間駅からは徒歩12分ほどだが、店までは坂道を歩かないといけないし、かつ東福間駅自体を利用するのはほとんどが近隣に暮らす人たちだけ。コーヒーを主体としたカフェを営むと考えると、立地的には不利だ。

ハンドドリップで淹れるフィルターコーヒー(1杯500円)

しかし、2014(平成26)年のオープン以来、同店は着実にファンを増やしてきた。その大きな力になったのが、Google Mapによる集客。近隣にカフェやコーヒーショップがないのが逆にアドバンテージとなり、「Google Mapを見て来ました」という人が開業時から多く訪れた。もちろん前知識なく店を訪れてもらうにあたり、インターネット上で高い評価を得られたのも大きい。これは店主の小田寛さんの人柄、高いホスピタリティによるものだ。

もともと20歳からホテルマンとして働き、街場の老舗イタリアンでサービスマンとして約10年経験を積んだ小田さん。この頃に磨かれたサービスマンとしての技術が、心地よく過ごせる店づくりに生かされ、星5つ、星4つなど高い評価を得て、さらにレビューにもたくさんの良い口コミが寄せられた。小田さんは「店の公式アカウントでSNSもいくつか運用していましたが、まずは店に足を運んでいただかないと、それらはほぼ意味をなしません。おそらくGoogle Mapによる集客がなかったら、店の存続は難しかったでしょう。インターネット全盛の時代にも救われました」と開業当時を振り返る。

ひたすら焙煎する日々を送り

開業時から大切にしているのは、お客にとって癒やしの空間であること

開業時から小田さんが大切にしているテーマがある。それが、屋号の“くつろぎ”が示す通り、店がお客にとってヒーリングスペース、癒やしの空間になること。そのために、小田さんはコーヒーを柱に据えた。「もともとイタリアンレストランで働いていたことから、ワインが好きで。コーヒーとワインは産地や環境に起因する味わいの違い、個性的なフレーバー、香りなど、共通点が多い。ただワインはすでに完成したものが瓶詰めされてお客さまに届けられますが、コーヒーの場合は焙煎という工程を経て、最終的な味わいが決まります。そういった理由から焙煎に興味を持ち、イタリアンレストランを退職した後、ロースタリーで働いたのが私のコーヒーの入口です」と小田さん。

ハンドドリップなどの競技会にも積極的に参加。2022年のロースト マスターズ チーム チャレンジでは九州チームの一員として2位を獲得

焙煎やカッピングなどコーヒーの知識を学んだのは福岡市東区にある美松コーヒーだ。「美松コーヒーさんに在籍していたのは1年ほどと短い期間でしたので修業といえるほどではありませんが、1年間みっちりコーヒーの世界の奥深さ、おもしろさを教えていただきました。実際、『くつろぎ珈琲』を開業してからも焙煎機をお借りするなど、大変お世話になりました」

日々焙煎を繰り返すことで技術を高めてきた

「くつろぎ珈琲」を開業して約2年後に250グラムの焙煎機、DISCOVERYを導入。それから小田さんは平均で40バッチ焙煎する日々をひたすら送った。焙煎はある程度のプロファイルは構築できるものの、理論だけでは説明できないことが多いと言われる。つまり焙煎機を設置した環境にて、回数を重ねることでしか技術は向上しない。小田さんの場合、250グラムと少量しか焼くことができない焙煎機だったこともあり、相当な回数焙煎を行い、圧倒的な経験値を得たのは言うまでもない。そうやって焙煎技術を高め、福津市を代表するコーヒーショップとなった「くつろぎ珈琲」。一方でカフェメインで営むスタイルに、小田さんはジレンマがあったという。

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